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前橋地方裁判所高崎支部 昭和45年(ワ)249号 判決

主文

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

一  原告等

(一)  被告は原告戸森タカ子に対し金二、八二五、〇八九円及び内金二、六九一、七五六円に対する昭和四五年一〇月二八日より支払済に至る迄年五分の割合による金銭を支払え。

(二)  被告は原告戸森泉に対し金五、八五〇、一八七円及び内金五、三八三、五二〇円に対する昭和四五年一〇月二八日より支払済に至る迄年五分の割合による金銭を支払え。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

右判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

主文と同旨。

(当事者の主張)

第一原告等の請求原因

一  亡戸森隆夫は昭和四四年一二月一一日午前七時三〇分頃、高崎市岩鼻町三一五番地先国道一七号線路上を自動二輪車を運転し、東京方面から長野方面に向つて進行中、同方向に進行していた被告の運転する大型貨物自動車に接触されて転倒し、その結果骨盤粉砕骨折の傷害を受け、よつて同日午前九時三〇分頃死亡した。

二  被告は右自動車を所有し、自己のため之を運行の用に供する者であつて、その運行によつて隆夫の生命を害したものであるから、よつて生じた後記の損害を賠償する義務がある。

三  損害

(一) 治療費等 金一九、四六〇円

(二) 得べかりし利益の喪失 金八、八五五、八一六円

隆夫は事故当時満二八才の健康な男子であり、昭和四二年一月一二日以降昭和運輸株式会社高崎営業所に勤務し、月収金五五、二四三円を得ていた者であるが、今後の稼働年数三二年、生活費三〇パーセントとして之を控除し、隆夫が今後取得し得べき利益を月別累計によるホフマン式計算法によつて算出すると金八、八五五、八一六円となるので、隆夫は本件事故による死亡のため同額の損害を蒙つた。

(三) 慰謝料 金四〇〇万円

原告タカ子は亡隆夫の妻、同泉はその子であつて、隆夫は原告等と共に円満な家庭生活を営んでいたところ、今回の事故による突然の死亡によりその精神的苦痛は筆舌に尽くし難いものがあるので、慰謝料として金四〇〇万円を請求し得べきである。

(四) 弁護士費用

原告等は被告に対し再三本件事故による損害の賠償につき交渉を重ねたが、被告は之に応じないので、その解決方を原告等訴訟代理人等に依頼した結果、本件が解決された場合、日本弁護士連合会の報酬規定に基き、本訴請求額の約一〇パーセントに当る金八〇万円を支払うという約定を為したので、之により原告等は同額の損害を蒙つたことになる。

四  原告タカ子は亡隆夫の妻、同泉は同人の子であり、それぞれの法定相続分である三分の一及び三分の二の割合により前記隆夫の損害賠償請求権を相続した。

五  原告等は本件交通事故に基く強制賠償保険金として合計金五〇〇万円を受領した。

六  よつて之を控除して、被告に対し、原告タカ子は金二、八二五、〇八九円及び内金二、六九一、七五六円に対する本訴状送達の日の翌日である昭和四五年一〇月二八日から、原告泉は金五、八五〇、一八七円及び内金五、三八三、五二〇円に対する同日から、各支払済に至る迄年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。

第二被告の答弁

一  原告等主張の一、の事実中戸森隆夫が大型貨物自動車に接触されて転倒したことは否認し、その他は認める。

二  同二、の事実中被告が右自動車を所有し、自己のため之を運行の用に供していることは認め、その他は争う。

三  同三、の事実中

(一) は認める。

(二) 隆夫の稼働年数、生活費の割合、計算方法は争い、その他は不知。

(三) は不知。慰謝料額は過大である。

(四) は争う。原告等と被告との間には、被告に対して罰金か行政処分があつた後に話し合うという約束が成立していたところ、いずれの処分もないのに本訴請求が為されたのであつて、被告は不当抗争をしていないから、弁護士費用が本件事故と相当因果関係ありとの主張は之を争う。

四  同四、の相続関係は認める。

五  同五、の事実は認める。

六  同六、の主張は之を争う。

第三被告の主張

一  本件事故当時、被告運転の車両は道路の中央線の約一〇センチメートル左側を真直ぐ長野方面に向つて走行していたところ、亡隆夫は被告車両に左後方から追いつき、被告車両の左側面と道路左側ガードレールとの間を通過する際ハンドル操作を誤つたものの如く、次のガードレール(ガードレールとガードレールとの間に切れ目がある)の先端に真直ぐ突つ込んで転倒したのである。

このように、隆夫は被告の車両に追いついた際、減速もせず、被告車両の左側面とガードレールとの間を強行突破しようとしてハンドル操作を誤つて自らガードレールの先端に激突した為本件事故が発生したのであるから、その原因は専ら亡隆夫の過失にあり、被告には運行上の過失はなかつた。のみならず被告の車両には構造上の欠陥又は機能の障害は無かつたのであつて、被告に損害賠償の責任はない。

二  仮に被告にも何等かの過失があつたとしても、亡隆夫の過失が大きいので、原告等は自動車損害賠償責任保険金五〇〇万円の受領によりその損害は既に填補されているというべきである。

三  被告は保険金のほかにも金五万円を原告等に支払済である。

(証拠)〔略〕

理由

一  原告等主張の一、の事実は、亡戸森隆夫が被告運転の貨物自動車に接触されて転倒したことを除き争いがないので、以下右争点について検討するに、〔証拠略〕を総合すると、隆夫運転の自動二輪車が本件事故現場付近に至り、被告運転の貨物自動車の左側面と道路左端に在るガードレールとの間を右自動車に追従して走行中、隆夫の右肘が貨物自動車の左後輪のタイヤの辺に接触したほか、自動二輪車の後部荷台右端と右自動車の左側面とが接触して、自動二輪車は平衡を失い、左側ガードレールの切れ目の先端に衝突、転倒したものと認められる。

二  そこで被告の免責事由の主張について検討する。

(一)  被告本人の供述によれば、被告はその所有の本件大型貨物自動車を運転し、事故現場から約一〇〇メートル東方に在る丁字路の手前で一旦停車し、其処から左に直角に曲り、道路の左側をセンターライン寄りに沿つて真直ぐに進行したが、事故現場を通過した直後、左後方に大きな衝突音を聞き、バツクミラーを見た時始めて亡隆夫の乗つた自動二輪車を発見した、というのであつて、それ以前に右二輪車を発見し得なかつた点において被告の注意が不足していたのではないか、との疑問がないではないが、前掲の証拠によれば被告の車両が自動二輪車を追越し又は追越そうとしたものとは認められないのであり、かえつて隆夫の乗つた自動二輪車は、被告の車両の後方より追随して走行したが、事故現場に至る手前で被告車両の左側後方に進出して来たところ、現場付近で道幅が狭くなり、貨物自動車とガードレールとの間隔が狭まつていたので、この場合、左側方から追走する車両は、左様な道路の状況に応じて、速かに貨物自動車の後方に退避する等適切な措置を講ずることにより事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのに、亡隆夫は之を怠つて貨物自動車の左側方に進行を続けたか、或いは少くとも退避しようとしてその時期が遅れたことにより貨物自動車に接触して本件事故が発生したものと認められるので、被告が左側後方に接近する自動二輪車を自己の車両との接触以前に発見できなかつたことは、已むを得なかつたか、或いは発見し得たとしても、事故現場に至る手前で右方に避譲することは困難であつた(右方に避譲すると、貨物自動車の右側方がセンターラインを越える危険があつたと認められるので尚更である)というべきであるから、被告がそのまま自己の車両を進行させたことは被告の過失とはなし難く、却つて被害者たる隆夫に過失があつたと認めて妨げないであろう。

(二)  〔証拠略〕を総合すれば、被告運転の貨物自動車には格別構造上の欠陥又は機能の障害が無かつたと認めて差支ない。

(三)  従つて、被告については自動車損害賠償保障法第三条但書に定める免責事由のすべてについて証明があつたと云えるから、本件自動車事故による損害賠償の責任はないというべきである。

三  よつて原告等の被告に対する本訴請求は、その余の主張について判断する迄もなく失当であること明かであるから、之を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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